【Part1】村本大輔氏:政治をお笑いネタにして何が悪い

【Part1】村本大輔氏:政治をお笑いネタにして何が悪い

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マル激トーク・オン・ディマンド 第884回(2018年3月17日)
ゲスト: 村本大輔氏(ウーマンラッシュアワー)
司会:神保哲生 宮台真司

 「日本では国のことを話す時、みんな人が変わるんですよ。そんなに揺るがされることが怖いんでしょうか。」

 そう語るのは、昨年末にフジテレビの演芸番組『THE MANZAI 2017』に登場し、漫才のネタの中に、原発や沖縄の米軍基地問題といったデリケートな政治問題を真正面から取り上げて大きな話題を呼んだお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔氏だ。

 村本氏は話題となったTHE MANZAI 2017の出演後も、元旦に放送されたテレビ朝日の朝まで生テレビに出演し、「殺されるくらいなら、尖閣諸島なんて中国にあげてしまえばいい」などと発言して、物議を醸し続けている。

 いわゆる識者や政治の専門家たちは、そういう村本氏の発言を「勉強不足」だの「非常識」だのと揶揄する人が多い。しかし、その一方で村本氏の疑問が国際政治や日本社会が抱えるもっとも基本的な矛盾点を突いているため、答えに窮した識者たちが逃げ口上として上から目線の反応を示している面も少なからずある。村本氏のあまりに基本的な問題意識は、日頃われわれが知らず知らずのうちに「所与のもの」としている「前提」を揺るがしていることもまた事実なのだ。

 それが村本氏の冒頭の発言につながっている。村本氏は朝まで生テレビの中である識者から「小学校から学び直せ」とまでバカにされ、罵倒されたと苦笑する。

 とはいえ日本では長らく、お笑いの世界で政治ネタや時事ネタはタブーとされてきたことも事実だ。要するに、政治や時事問題に関わるネタは「重くて笑えない」というのが定説のようだ。実際、芸能人が下手に現行の政権やその政策を批判などをしようものなら、「干される」のは必至だと考えられ、実際に干された人も少なからずいる。

 一方、海外ではコメディアンたちが毎晩のように政治をネタにした番組が流され、人気を博している。コメディアンたちが政治問題や社会問題を面白おかしく切ってくれるおかげで、あまり時事問題に興味がない人たちも、世の中で何が起きているかを知ることができている面が多分にある。

 大統領選挙のたびに著名な俳優たちはこぞって支持表明をする。先の大統領選挙におけるロバート・デニーロやメリル・ストリープらのトランプ批判は世界中の注目を集めた。

 日本の芸能界でなぜ政治ネタが強く忌避されるのかについては、きちんと考えてみる必要があるだろう。しかし、理由は何にせよ、政治ネタが嫌がられる日本のお笑いの世界にあって、村本氏はあえてその領域に切り込むことを選んでいる。そして当然の結果として、その動きはこれまで、政治意識は高いがお笑いにはそれほど関心がなかった人々からの強い支持を得る一方で、一部からは強い反発も生んでいる。

 ところが村本氏が反発を生んだり叩かれてまで漫才のネタに政治を取り入れる理由は、意外なものだった。

 「僕自身は正直、日本のためとかはどうでもいいと思ってるんです。福井県で最下位だった高校中退の僕が、お笑いの世界で頑張って、今や石破茂さんまでが、僕と話したいと言ってくれるようになった。僕が頑張れば周囲はそれを見てくれる。僕はそれでいいんです。」

 村本氏の口からは、正義感だの市民意識だのといった大仰な言葉は決して出てこない。例えば原発ネタについても、自身が原発の街、福井県大飯町出身の村本氏は、子どもの頃から感じていた「この電気はどこに行ってるんだ」という素朴な疑問をネタにしただけだという。沖縄の基地問題にしても自衛隊にしても日米関係にしても、普通の人が普通に話を聞いたら「変だ」と感じることを、やや皮肉を込めてネタにしているだけで、それ以上でもそれ以下でもないと村本氏は言う。

 これからは人種問題やテロの問題、国際紛争なども新たにネタに組み込んでいきたいと抱負を語る村本氏は、同時に活動の場を海外にも求めていくことを計画している。実際、今年に入ってから1ヶ月間休みを取り、ロサンゼルスの英語学校の集中英語講座に通い、帰国したばかりだ。

 ロスでは英語学校に通う合間に現地のスタンドアップコメディ・シアターに通い、帰国間際に自ら飛び入りで英語の一人漫才に挑戦している。番組の中でその時の映像も見たが、英語発音には苦労しながらも、鉄板のアジア人下ネタを披露し、しっかり現地の人々の笑いを取っている。

 この先、日本で村本氏の政治ネタ漫才が支持を拡げるか、ウーマンラッシュアワーに続く時事ネタ芸人が登場するかどうかはわからない。また、村本氏のアメリカ進出が成功するかどうかも、現時点では未知数だ。しかし、少なくとも村本氏が芸人としてこれまで日本では長年タブーとされてきた分野に真正面から切り込むことで、日本のお笑いや芸能界のあり方に一石を投じていることだけは間違いない。

 日本ではお笑いや芸能人として一定の成功を収めた人は、テレビのCMに出ることで大きな収入を得るのが、定番になっている。芸能の世界で得た名声を、特定の企業や商品の売り上げのために切り売りすることは恥ずかしいことではないが、それを政治の意見表明のために使った瞬間に芸能界では「干される」のが日本だ。欧米では、著名な芸能人が幅広い社会問題について政治的な意見表明をするのが当然視される一方で、CMに出るようでは芸能人としては終わり、とされている欧米のとは対照的だ。

 村本氏のやや型破りな挑戦が、これから先、日本のやや特異なショービジネス文化にどのような影響を与えるかは、今後も注目していきたい。

 アメリカから帰国したての村本氏に、政治ネタに挑み続ける理由や、アメリカで見てきたものなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。

【ゲスト・プロフィール】
村本 大輔(むらもと だいすけ)
お笑いコンビ ウーマンラッシュアワー
1980年福井県生まれ。福井県立小浜水産高等学校中退。99年吉本総合芸能学院(NSC)大阪校入学。2000年デビュー。08年、ウーマンラッシュアワーを結成。13年「第43回NHK上方漫才コンテスト」優勝。「THE MANZAI2013」優勝。著書に『村本論 妬み恨みを強みに変える、ネガポジ365日』など。

(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)

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